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「経営計画不要論」の解説

バーチャル経営塾『2代目社長の生き残り組織再生論』

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「経営計画不要論」の解説


これまでのコラムで、経営計画の意味や作り方・実行の仕方を見てきましたが、一度立ち止まって、「本当に必要なのだろうか?」という疑問を掘り下げて考えてみましょう。
このコラムでは、経営計画を不要だと説く実業家の意見を参考に、経営計画が自社に本当に必要なのか?という問いに答えを見つけたいと思います。

経営計画の必要性を確認しておこう

当サイトで何度か説明してきましたが、改めてここで経営計画の必要性から確認していきましょう。

会社の方向性やビジョンの明確化

経営陣でもない限り、経営理念やビジョンなどで会社の大きな方向性などをいつも気にしている人は少ないでしょう。
しかし、会社の様々な業務を進めるにあたり、ビジョンや経営理念は確実に影響を及ぼしています。

・ビジョンなき経営

 たとえば、会社が5年後・10年後にどうなっていたいのかという共通イメージを「ビジョン」と呼びますが、このビジョンがあるからこそ、新規事業に取り組む際にA案とB案を検討する時の基準になりますし、会社から自分が評価をされるためにはどのような行動をし、成果を挙げるべきなのかが明確になります。

もし経営理念やビジョンなどの長期的な経営計画がなければ、会社の業務は「行き当たりばったり」に陥り、混乱することになるでしょう。

会社のビジョンがない場合、何を基準に仕事をするかというと、おそらく自分が楽なやり方や、または直属の上司から気に入られるような仕事をやろうとする動機が働きます。
そのような会社が継続的に収益を上げ続けるとは思えません。
会社の方向性を明確にし、社員一人ひとりの仕事の方向を正しい方向へ導くためにも、経営計画は必須なのです。

客観的な視点で経営戦略を立案できる

経営計画を定期的に(毎年)策定している会社では、少なくとも1年に一度は自社の数字や取り組むべき課題について客観的に考え直すことができる時間は、貴重です。

その際、都合の良い事実ばかりに目をやらず、自社にとって都合の悪い事実も直視することが重要になります。
自社の弱みや、将来の脅威に備えて、戦略的に取り組むことができるのも、経営計画の策定の意味です。

人財の確保

優秀な人財ほど、会社の将来に関心を持ちます。
たとえ給与や待遇で他社に勝っていても、おざなりな経営計画の会社には就職したいと思わないでしょう。
人財の獲得や、離職率の低下のためにも、しっかりとした経営計画は有効なのです。

人財の正しい評価

経営計画がなければ、人財を正しく評価することができません。
経営計画があれば、どのような行動が望ましいのかがわかります。
逆に、望ましい行動が分からないのであれば、その経営計画は不完全だと言えるでしょう。

経営計画のない会社、または経営計画が形骸化している会社では、人材の評価は上司の好き嫌いだったり、残業時間の長さだったりするでしょう。
そのような会社では優秀な部下のモチベーションを維持することは難しいのです。

業績アップ

これまで見てきたように、「人財の活用・正しい行動・評価」のために経営計画はなくてはならないものです。
そして経営計画があればこそ、社員の行動を正しい方向へ集中させることが可能になり、結果として業績の最大化が図れるのです。

事業承継

業績の良い会社でも、会社のトップが変わって急に落ち込んでしまうこともあります。
そのようなケースでは、多くの場合で事業承継がスムーズにいかなかったことが原因だったりします。
事業承継とは、先代の社長(オーナー)から次代の社長へ経営をバトンタッチすることですが、社長交代の時には、往々にして多くの問題が起きます。

・事業承継に失敗

 詳しくは別のコラムで書きますが、例えば先代の社長から務めてきた古株社員の退職や、取引先の逸失、そしてこれまでは先代のカリスマ性でなんとかカバーしていた潜在的な様々な問題点の噴出…。

このような事業承継に携わる問題を乗り越えるには、数年前から事業承継の準備を入念に進めておくことが大事です。
また事業承継の際に経営をスムーズにバトンタッチするためにも、経営計画が必要なのです。

経営計画不要論とは?

前節で見てきたように、経営計画にはたくさんのメリットがあります。
しかし、経営計画を作る必要がない(作らないほうが良い)とする意見もありますので、ご紹介しておきます。

稲盛和夫氏の場合

京セラやKDDIの創業者で、JALの立て直しに尽力した稲盛和夫氏は、その実績と発信力から、日本の経営者やビジネスマンで知らない人はまずいないでしょう。
そんな彼は、意外にも経営計画不要論を展開する一人です。

経営計画の中でも、5年や10年といったタイムスパンで計画を立てる「長期経営計画」についてですが、彼は立案する必要がないと説いています。

・どうせ達成できない計画なら、立てない方が良い

 というのも、5年や10年といった先のことは、現時点で確実に予測することは難しいもの。
不可能と言ってもいいでしょう。
そんな予測の難しい未来の計画を立てても、途中で挫折したり放棄したりしてしまうのがオチ。
どうせ達成できない計画なら、立てない方が良いという考え方のようです。
確かに、何度も下方修正や放棄をさせられたら、計画を達成したいという意欲も削いでしまいます。

・今、目の前の仕事に全力

 ただし間違ってはいけないのが、彼は「長期経営計画」を不要だと言ったのであって、経営計画のすべてを無駄だと言ったわけではないということです。
むしろ、1年単位のいわゆる「中期経営計画」は厳密に立案し、そして強い気持ちを持って達成を目指してきました。

この方針は、先の見えない不確実な未来の予測に労力を使うより、今目の前の仕事に全力で取り組むという彼の経営哲学が反映しているのかも知れません。

吉越浩一郎氏の場合

トリンプ・インターナショナル・ジャパンで長い間社長を務め、そして19年間の増収増益を達成したのが吉越浩一郎氏です。
彼は、日経に「経営計画が経営をダメにする」という記事も書いており、経営計画不要論で知られています。
稲盛氏の場合と同様に、実業界で"これでもか!"というほど大きな実績を残してきた人物だからこそ、その言葉に重みがあります。

・無駄を徹底的に排除

 彼が率いたトリンプでは、残業を禁止し、早朝に会議を行い、仕事のデッドライン化(締切を細かく設定する仕事術)を採り入れました。
従来の慣習にとらわれず、良いものは良い・悪いものは悪いと決断する彼には、経営計画も無駄なものに見えたのかも知れません。

彼は経営計画に対して以下のような名言を残しています。

"私はだいたい6~7割の確証で決断しています。
現場での感覚を大切にしていれば、6~7割の完成度はすぐにイメージできます。
でも、それ以上に完璧を目指そうとすると、逆に時間と手間がかかってしまいます。
それに、計画段階で完成度を上げても、現場での実施段階で必ず軌道修正が必要になってくるものです。
ですから、7~8割の確証が持てれば決断して、実施段階で軌道修正をしながら時間をかけて完成度を高めていきます。"

出典:リーダーたちの名言集

・経営計画を立てること「自体」には意味はない

 前節で改めて確認したように、経営計画にはいくつもの大きなメリットがあります。
だからこそ、多くの会社で経営計画を立てているわけです。

しかし何事にも加減というものがあります。
経営計画を立てること「自体」には意味はありません。
にも関わらず、経営計画の完璧性にこだわるあまり、本質の「会社の業績」を上げることに時間を使えないのだとしたら、それは本末転倒ということ。
彼の経営軽計画不要論も、一流の経営哲学あってこその意見なのでしょう。

経営計画のデメリットとは?

当サイトは、あくまでも経営を勉強してもらうことが目的です。
そのために、経営計画のデメリットや問題点についても体系的にまとめておきましたので、確認してください。

長期の経営計画の不確実性

稲盛和夫氏も述べているように、3年以上の経営計画(長期経営計画)は、どうしても不確実性が大きくなってしまいます。
もちろん、会社のビジョンや経営理念・ミッションなどは、コロコロ変わるものではありませんし、また変えるべきでもありません。

しかし、数年後の未来の自社を取り巻く経営環境を正確に見通すことは不可能です。
そのため、細か過ぎる数字の予測を立てたり、ましてや詳細な予算を決定することは無意味でしょう。

・「長期経営計画」と「中期経営計画」の目的を分ける

 しかし、もし「不確実だから計画を立てる意味がない」と言い切ってしまうのであれば、極言すれば明日の計画すらおぼつかなくなります。
要するに、「長期経営計画」と「中期経営計画」の目的を分けることが重要なのです。
長期経営計画には理念やビジョンを、中期経営計画には数字目標や取り組みを記載するのが正しいやり方でしょう。

イノベーションは計画できない

「計画的イノベーション」などという言葉もありますが、基本的にイノベーションというのは計画の外にあります。
「イノベーション」についてはまた別のコラムで詳細に説明しますが、ここでは大まかに以下のような定義で考えておいてください。

"イノベーションとは、物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」(を創造する行為)のこと。
一般には新しい技術の発明を指すと誤解されているが、それだけでなく新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する。"

出典:ウィキペディア

・イノベーションは予測不能

 つまり、過去の延長線上ではなく、新しい発想や技術から大きな変化を起こすことです。
新しい発想は予測していないのですから、イノベーションを計画することは予測不能のことを予測するこはできない、というトートロジーに陥ります。

ではこのような予測の難しいイノベーションは、計画して起こすことが可能なのでしょうか?
もちろん、ある程度の予測精度を持った、経験則的な手法はあります。

・イノベーションへの取り組み例

 例えば、Googleや3Mのような革新的な企業では、自分の仕事の時間の数%~20%ほどを、革新的な取り組みに使うことが許可(推奨)されています。

また、新しい仕事の仕方や事業に取り組んだ人に高い評価を与え、たとえ失敗しても減点しないような評価制度にすることも効果的だと言われています。
この他に、チームでの仕事を促したり、そのチームを流動的にするなども、イノベーションを引き起こすためによく採用されている手法です。

・コンティンジェンシープラン

 しかし本質的に私たちは、未来のイノベーションを正確に予測することはできません。
そのため、未来(特に数年先)を見通した経営計画を正確に立案することには、限界があるのです。

例えば、新規事業の立ち上げや抜本的な経営改革などを計画する場合に使える計画の立て方があります。
「コンティンジェンシープラン」と呼ばれる方法です。

"コンティンジェンシープランとは、予期せぬ事態に備えて、予め定めておく緊急時対応計画です。 
これがあることで、組織は、予期せぬ事態によって中断する範囲を最小限にし、迅速かつ効率的に必要な業務の復旧を行うことが可能になります。"

出典:ニュートン・コンサルティング

・イノベーションを予測したプラン

 要するに、もし未来に思いの外良い方向(悪い方向)に進んだ時に備え、セカンドプラン(サードプラン)を用意しておく方法です。
エンジニアリングでは「if-then プランニング」(または「if-then ルール」など)とも呼ばれます。

「もし~だった場合には~」と、予め想定しうる事態とその時の計画を立てておくわけですね。
この方法を使えば、イノベーションのような未知の取り組みにも柔軟に対応することが可能になります。

トップダウン型の限界

経営計画を立案するのは、主として経営幹部です。
小さい会社なら社長が自ら作成することもありますが、基本的には別の幹部を任に当たらせることが多いようです。

というのも、経営計画を立案するということは、責任を負うことができなければならないためです。
これは経営計画に限りませんが、計画を立てた本人が知らん顔をするわけにはいきませんよね。

しかしこれが、経営計画の問題点にもなりえるのです。
というのも、社長を含む経営幹部が策定する以上、経営計画はトップダウン方式で進められます。
すると経営計画には限界が生じます。現場とのズレです。

・現実離れ

 ある程度の規模以上の会社になると、社長や経営幹部が現場のことをすべて把握できていることは稀です。
現場でお客様や取引先と直にやり取りをしている社員に比べて、どうしてもリアルタイムの情報に疎くなってくるのは致し方ないことです。

そのような経営幹部が立てた経営計画は、社員からすれば現実離れしたものに映ることでしょう。
机上の空論として認識されたら最後、その経営計画を達成しようという意志は持たれません。

・そして他人事へ

 他人事として経営計画を見ている社員が、その計画に対してモチベーションを維持することは難しいでしょう。
そして現場と計画のズレは日を追うごとに拡大していき、絵に描いた餅の経営計画は放棄されるか未達成に終わる運命にあります。

中計はボトムアップで策定

もちろん、長期的な経営計画はボトムアップでは決まりません。
どうしても社長の信念や哲学といった着想からトップダウンさせるしかないでしょう。
しかし、中期経営計画などの具体的な計画には、ボトムアップ型で現場の意見を採り入れた策定方法が望ましいと思われます。

・会議のコーディネーター、ファシリテーター役が重要

 社内で活発な議論ができればボトムアップ型は成功しますが、もし決まりきった形の不活性な会議が常態化しているなら、会議のコーディネーター、ファシリテーター役として経営戦略に知見のあるコンサルタントなど、外部の専門家を活用することがおすすめです。

他人事

経営計画を立てても達成できないのは、社員が「他人事」だと考えているからです。
自分のことだと考えれば、計画の立案も達成への行動にも高いモチベーションで臨むことができます。
しかし所詮他人事だと思えば、わざわざ努力して達成したいとは思いません。

「あとは任せた」

このようなケースは、多くの場合トップダウンで経営計画を作成し、しかも経営理念やビジョンがブレブレだったりします。
それなのに「あとは任せた」と言わんばかりに、経営計画を押し付けられては、社員もたまったものではないでしょう。

社員全員が自分のことだと考えて行動するには、ひとまずこれまでの経営計画がぶれていないか、胸に手を当てて自省してみる必要があるでしょう。

コストがかかり過ぎる

経営計画(この場合は特に「中期経営計画」)を策定する場合、社内だけでなく社外に与える影響も考慮する必要があります。

当然のことながら取引先の金融機関は経営計画を確認しますし、就職を望む優秀な人材や、投資家、得意先企業も経営計画は目にするはずです。
社内の調整だけでも厄介なのに、このように多くの利害関係者を意識した計画の策定には、それなりの時間がかかります。一朝一夕には作れないのです。

・嘲笑と失望の的に

 会社の中には、経営計画策定のために多くのリソースが割かれます。
本来ならばもっと重要度の高い、やるべき仕事があるにも関わらず、経営計画立案のために時間を割かれる社員もいるはずです。
だからといって、経営計画をテキトーに済ませれば低パフォーマンスにつながり、また外部からは嘲笑と失望の的になってしまいます。

マンネリ化/自己満足

実効性がない経営計画には共通点があります。
それが自己満足です。
特に長年に渡り経営計画を作成してきた会社にありがちなのですが、きれいな経営計画を作っても、それを達成しようとしないケースが目立ちます。
このような経営計画は作っても意味がありません。

経営計画を作るということは、自社の過去の歩みを客観的に分析し、これからの方向性を確認し、覚悟を新たにすることが求められます。
しかし、去年と同じような経営計画を使いまわしていては、本来の目的を忘れてしまっています。

・外部の意見を取り入れる

 自己満足に陥るのは、まさに外部の目にさらされていないことが原因です。
そのため上記と同じくこの場合も、コンサルタントなど外部のチェックを入れることが必須になります。
もしマンネリ化した経営計画が続いているなら、一度プロの指摘を受けるようにしてみてください。

努力のいらない目標

マンネリ化とも関連しますが、努力のいらないお手軽な経営計画もまた無意味です。
目標とは現在の延長のことではありません。
現在の延長なら、何もしないでも待っているだけで訪れます。

そこに計画は不要です。
経営計画を立てるということは、長期のビジョンを達成させるためにストレッチのかかった目標を設定するということです。

・大きすぎても小さすぎてもマイナス

 もし何の努力もいらないで達成してしまうような計画なら、あってもなくても同じこと。
むしろ努力の必要性が薄れるので、会社の成長のためにはそのような目標はない方がいいでしょう。

まず、目標の立て方について知る必要があります。
目標は、大きすぎても小さすぎてもマイナスの効果が大きいのです。
正しい目標の設定の仕方は、次回以降のコラムで詳しく説明していきます。

さいごに

ここでは解説していませんが、経営計画の策定や実行において「BSC」(バランス・スコアカード)と呼ばれる方法がよく採用されます。
これ以外にも様々な手法が、確立されてきています。
もし経営計画について助言が必要であれば、気軽に当社までご連絡ください。